大阪高等裁判所 昭和59年(ネ)266号 判決
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【判旨】
一被控訴人と訴外山下しずえとの身分関係、同人らの職歴、控訴人としずえが知り合つた経緯やその後の関係その他について、当裁判所の認定する事実は次のとおり付加するほか原判決六枚目裏一二行目から同九枚目表六行目までに説示のとおりであるからこれを引用する。
二控訴人は、被控訴人には多くの女性関係があり妻しずえを蔑ろにし家庭を顧みないものであつて侵害されるべき夫権がないと主張し、被控訴人がこれを争うので案ずるに、<証拠>によれば、控訴人はしずえと知り合つて四年ほどたつたころに被控訴人からの電話でしずえが有夫の身であることが判つたが、その後も同女との性的関係を継続した事情として、しずえが被控訴人との間に夫婦関係は全くなく被控訴人は殆んど不在で他人同様であるから従前どおりの関係を続けてほしいと控訴人に訴えたことによるものであることが認められる。右認定に反し原審証人山下しずえの証言には、しずえが被控訴人と他人同様であるようなことを控訴人に話していないとする部分がある。しかし右しずえの証言は自己弁護に終結しその証言内容はそれじたい容易に措信し難いものであるのみならず、引用の原判決認定の事実によれば、しずえは昭和四五年ごろから控訴人と性交渉を続け四年ほど後にしずえが有夫の身であることがわかつた後も控訴人が昭和五〇年前後ごろ一時刑務所に服役していた期間を除き昭和五六年初めころまで性交渉が続いていたというのであり、このように長期間にわたつて継続的に性交渉をもつた男女の会話として、女が夫との間が他人同様であるように述べることは極く普通のありうる会話と解せられるからこれを否定する右山下しずえの証言部分は措信するに足りず、<証拠>も右認定の妨げとなるものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
ところで、控訴人は、「数多の女関係をもつて妻しずえを蔑ろにし家庭を顧みなかつたという被控訴人には実質的に侵害されるべき夫権はなく精神的損害もまた発生するに由ない」旨の控訴人の主張を証すべき事実として、原審において被控訴人本人の尋問を申請し原裁判所により採用されたが、被控訴人はその尋問期日に出頭せずその後の期日呼出状も郵便局留置期間経過の故に不送達に終つた経緯が存することが記録上明らかであるほか、当審においても被控訴人訴訟代理人辞任後の第三、四回口頭弁論期日にいずれも出頭せず、結局被控訴人は原審及び当審を通じてまつたく出頭していないものである。しかして原審における被控訴人本人尋問の期日呼出が適式の呼出を受けたものといえないことが記録上明らかである以上、右の期日の不出頭をもつて直ちに民訴法三三八条を適用することができないことはいうまでもないが、かかる原審及び当審を通じて出頭しない事実は弁論の全趣旨として斟酌するのが相当と解されるところ、右弁論の全趣旨に加え、前記認定のとおりしずえが被控訴人と他人同様であるから控訴人との関係を続けて欲しい旨訴えていた事実ならびに原審証人山下しずえの証言によれば、しずえが控訴人に対し被控訴人の女性関係を肯定する発言をしていることが認められ、被控訴人にも女性関係があつたものと認められることを合せ考えれば、被控訴人としずえとの間には夫婦としての実質があるかどうか頗ぶる疑わしく、控訴人がしずえとの間に相当期間にわたつて性交渉を継続したことは形式的には被控訴人の夫権を侵害したものとして不法行為を構成するものではあるが、被控訴人には侵害されるべき実質的な夫権または不法行為法上保護に値いする法律上の利益が存在しないものと認めるのが相当であり、したがつて被控訴人は精神的損害を被つたものと認めることはできず、被控訴人が控訴人に対し不法行為を理由として慰謝料の支払いを求める本訴請求は理由がないものという外はない。
三してみれば、被控訴人の控訴人に対する本訴請求はすべて理由がないからこれを棄却すべきである。
よつてこれと異なり被控訴人の請求を一部認容した原判決のうち控訴人敗訴部分を取消し被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(今富滋 畑郁夫 亀岡幹雄)